2011年6月1日水曜日

生肉のリスク管理

富山を中心とした焼肉レストランチェーンで生肉であるユッケを食べて、病原性大腸菌であるO111により4名の方が亡くなった。

大腸菌は、人間をはじめとする動物の腸内にいる常在菌で、約180種類いる。人の腸内に常在する大腸菌は、植物繊維の消化を助け、ビタミンKを作り出すなど、人と共生してきた善玉菌である。ところが、牛とって共生関係にある大腸菌が、人とも共生できるとは限らない。特に腸管出血性大腸菌O111やO157は、牛には問題がなくても、人間には食中毒を起こし病原性を生じる。これらの大腸菌は、腸内で赤痢菌と同様のシガ毒素を出し、下痢や脳症など重い中毒症状を起こす。また、EUでは、生野菜に付着したO104による多数の死者が発生している。

日本では、以前から何度も中毒事件が起きていたにもかかわらず、行政も卸売業者、レストラン双方がなんら改善してこなかったことに問題がある。
「生食用食肉の衛生基準」(1998年9月11日生活衛生局長通達)により生食用食肉の規格や衛生管理について定め、これに沿った食肉に限り「生食用」と表示することとしている。しかし、この基準はほとんど遵守されず、行政も放置していた。なぜ、行政は国民の健康を第一に考えないのだろうか。生肉を食べることによる危険性があるのなら、確実に安全性を確保しなければならないはずなのに、業者の営業の負担を避けることに重点が置かれ、何かことが起こっても人ごとのような対応である。まるで、当事者意識が欠如しているとしか言いようがない。

韓国でも日本と同じようにユッケを食べているが、行政機関による抜き打ち検査や違反業者名のインターネット公開が行われており、行政の責任意識は日本の厚生労働省よりしっかりしているように思われる。餃子事件で中国に対する批判が集まったが、日本の食の安全もそんなに信頼できるとは言いがたい。厚生労働省の職務範囲が大きすぎるのも当事者意識の欠如の原因になっていると思われる。

「食の安全」は消費者庁に統合し、「労働安全衛生」は分離して、米国や英国のような労働安全衛生庁に改編して専任職として独立するのも一案である。利権を持つ巨大な組織では、現場から遠くなり、現場と密接したリスク管理は無理である。今回の、食中毒事件も現場の動きを的確に掴めなかった組織の問題ではないであろうか。

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