2010年6月9日水曜日

起重機船の安定度

移動式クレーンは本当にいとも簡単にひっくり返ります。
移動式クレーンは、水平で堅固な地盤に設置することを大前提として、安定度を十分確保する範囲で定格荷重が定められています。そして移動式クレーンの検査では、定格荷重の1.27倍の荷重を吊り上げ、機械そのものの強度と安定性と確認することになっています。
しかし、クローラクレーンを台船に搭載した場合はどうなるのか。
クローラクレーンを台船に搭載し、台船と固定して一体とした場合、「浮きクレーン」になり、あらたに「浮きクレーン」(起重機船)としての検査を受け安定性を確認する必要があります。

作業船設計基準「第4編港湾工事用起重機船」に起重機船の安定性が決められていて、それを抜粋すると
4.2.1 起重機船の安定度
起重機船は、静穏な水面で定格荷重に相当する荷重を吊った状態において、転倒端に置ける乾舷(上甲板から水面までの垂直距離をいう。)が、0.3m以上となるものでなければならない。
(1) 「静穏な水面」とは、波立たない平水面をいう。
(2) 「乾舷」とは、右図に示す距離をいう。
(3) 移動式クレーン構造規格第15条(浮クレーンの安定度)は、起重機船の安定度について以上のとおり規定している。
(4) 移動式クレーンの荷重試験及び安定度試験について、クレーン等安全規則第3章移動式クレーン第55条に以下のとおり規定されている。
 (a) 荷重試験は、移動式クレーンに定格荷重の1.25倍に相当する荷重(定格荷重が200トンをこえる場合は、定格荷重に50トンを加えた荷重)の荷を吊って、吊り上げ、旋回、走行等の作動を行うものとする。
 (b) 安定度試験は、移動式クレーンに定格荷重の1.27倍に相当する荷重の荷を吊って、当該移動式クレーンの安定に関し最も不利な条件で地切りすることにより行うものとする。
(5) 起重機船の転倒に対する要素は、陸上の移動式クレーンとはまったく異質のものである。

起重機船の安定度は、陸上の場合に比べ十分にあり、試験荷重時に喫水を計測して確認すれば十分です。
船の安定度については、船体の乾舷及び船体の傾斜角などを確認することでよい。そして船体傾斜角の許容範囲を以下のようにすることを推奨しています。
4.2.2 船体の傾斜角
非自航起重機船作業時の船体傾斜角の許容範囲は次のとおりとすることが望ましい。
(1) 縦傾斜角(トリム角)
   ・荷重吊り上げ直前(船尾に)  3°
   ・荷重吊り上げ時(船首に)  3°
(2) 横傾斜角(ヒール角)
   ・荷重吊り上げ直前(反対側に)  3°
   ・荷重吊り上げ時(荷重側に)  3°
ただし、いずれの場合においても最小乾舷300mmは満足されていなければならない。
台船にクローラクレーンを搭載し固定しない場合も、滑動防止措置をとり、台船が傾斜しない措置が必要です。そして安衛法(法38条、令2条3号、クレーン則85条)により変更届(変更検査)が必要です。変更検査には安定計算が必要になります。
ちなみに、私もクウートで起重機船転倒の経験があります。そのときは、台船の舷側に穴が開いていて、海水が中に入ってバランスを失い転倒しました。

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