2009年7月30日木曜日

海外現場の安全パトロール

2週間かけて、シンガポール、ベトナム、インドネシアの現場パトロールに行ってきました。

国や発注者によって安全に対する考え方や意識に大きく違うことが判りました。
海外の現場へは、国内の現場と違い「ちょっと昼から現場に行こか」という具合に簡単には行けません。時間とお金がかかります。したがって国内でやっているような現場の不安全状態や法違反を探して是正指示書を残していくというのでは、費用対効果と現場の信頼も得られません。

今回は、安全パトロールを兼ねて、現地職員の安全教育と安全訓練を行いました。
海外現場の職員は国内のように安全教育の機会がなく、周りの安全水準の低さにも慣れてしまって危険感受性が低下しています。また、国内で問題になっているような現象、例えば「下請け任せの習慣」や「職員の技術力の低下」、「パソコンに頼った業務によるコミュニケーション不足」という問題がそのまま現れています。

言葉の問題もありますが、まず職員の技術力低下や危険感受性の低下をなんとかしなければなりません。パトロールをして評論家的に現場を批評して本社に報告するというケースがかつてあったようですが、現場との信頼関係も重要であることを痛感しました。現場との信頼関係があってこそ、海外現場と東京が一体になって問題に取り組めると思います。

今回は、色んなことを現場から教わりました。

2009年7月27日月曜日

労働安全衛生コンサルタントのCPD

アメリカではSafety Engineer, シンガポールではSafety Officer制度があり資格を取得するにも厳しい試験と経験が必要です。
知識レベルは労働安全コンサルタントと同様と思われますが、社会的地位がはっきりしています。

しかし日本の労働安全コンサルタントは海外では認められていません。理由は資格が更新制でないこと、英語が喋れないことなどがあります。

労働安全衛生コンサルタントは技術士と同じようにCPD制度があり、更新制の準備が始まったところです。
昨年末、APECエンジニア(技術士)更新のためにCPD実績報告を提出し、更新を認められました。今度は労働安全コンサルタントのCPD登録を出し、先日第一回目のCPD証明書が届きました。

日本の多くの技術者資格は更新制でないため、国際認証されない問題があります。そのためCPD制度を設け自己研鑽を行うことが義務づけられました。CPD制度が定着した時点で技術士や建築士、労働安全コンサルタントも更新制に移行すると考えられます。

中には更新制を取り入れている資格もあり、APECエンジニアやコンクリート診断士がそうです。
ただし、問題もあります。CPDを学協会間で相互承認していますが、組織によって内容やレベルに差があることです。施工管理技師会のCPDSは、社内教育から災害防止団体の教育までかなり内容の低いものまで認めているのに対し、まさか技術士がそのようなCPDで申請する訳にも行きません。主管省庁ごとに主導するCPDは縦割行政の弊害であり、全世界で認められるようなものではなくなります。

なにより、早く資格を更新制に切り替え、諸外国との資格の相互承認をすることにより、日本の技術者の資格の国際的地位を高めることが、これからの国際社会を勝ち抜くには必要不可欠でしょう。そうでないと日本だけが国際社会から取り残されてしまします。

2009年7月24日金曜日

夏山登山の危険性

トムラウシ岳の死亡事故

 大雪山系で荒天に遭いツアー登山者が疲労と低体温症により8人死亡する事故が起きました。最近の中高年者登山ブームとマスコミに踊らされた「日本百名山」ピークめぐりブームが背景にあります。

 このブームに便乗して旅行業者が登山ツアーを企画し、自分で計画できない人たちを募集して登山に連れて行くケースが多いようです。今回も登山ツアーにガイドが3人添乗していたようですが、3人のうち2人はこの山に登った経験がありません。また、日本では商業目的で登山ツアーを募集する場合、日本山岳ガイド協会または日本山岳会認定の資格者を添乗させることを義務づけていません。

 今回の行動パターンを見ていても、リーダーとしての資質を疑います。全員の安全を守るという使命が全くありません。多分そのような訓練を積んでいないのだと思われます。強風雨の中をなぜ強行するのか、避難小屋でもう一日待ち、むやみに行動しないのが鉄則です。
 また、リーダーと元気のいい人だけが先をどんどん行き、みんなのペースがバラバラになるという新米リーダーの典型です。
 このような人をガイドとして送り出した会社の安全体制に問題があります。商業登山ツアーとして行う以上、契約には安全配慮義務が生じ社長に安全管理責任が生じます。今回のような場合は予想しがたい災害とは言えません。

 また、中高年登山者にも問題があります。山でよく見かける光景ですが、中高年のわがままと意固地なところです。避難小屋でも場所を確保して他者を受け入れようとしないとか、場所をわきまえず大声で喋るオバハンたち、道のあちこちでオシッコしてティッシュをちらけっぱなしにするなど、私たちが登っていても目を背けたくなります。
 そのわがままの中で、ある人は荒天でもお金を払ったんだからどうしても頂上へ行けと言っただろうし、もうしんどいから行きたくないなど、まとまりがつかなかったのだと思われます。
 夏山でも縦走する場合防寒着は必要ですがそのようなことも知らない参加者もいました。

 中高年登山者にはもう少し登山の常識「登山の基礎知識」を学んでもらいたいものです。
また、リーダーはどんな人にも「登山の基礎知識」を教える義務があり従わせなければなりません。それができなくなった時点で登山を中止して下山すべきです。

 マスコミによる「日本百名山」も困ったものです。ただただ深田久弥がいう百名山のピークを目指すだけで山そのものを味わう人が少なくなったことです。ただ深田久弥が名付けただけで良い山は他にも沢山あります。百名山と名前がついているだけで多くの人が訪れ、山が荒れているところが多くあります。世界遺産と一緒でミーハーが集まるだけでほんとに山を愛す人にとっては迷惑な話です。今回の悲劇も、山の基礎知識がない中高年登山者が百名山のピークを求めて登り、未熟なリーダーの指導力不足の犠牲になったのでしょう。

全員の安全を確保してこそリーダーです。

2009年7月21日火曜日

JR西日本社長の起訴

JR西日本社長が起訴

2005年4月、JR宝塚線脱線事故で107人が死亡、562人が負傷したが、神戸地検は7月9日、JR西日本社長を業務上過失致死傷罪で起訴した。

当時はすでに急カーブへのATS整備は一般化しており、現場が急カーブであり脱線の危険性があるにもかかわらず快速列車を大幅に増発した反面、安全対策を怠ったことが理由です。危険性を認識できる状況「危険性が予見可能」にもあるにもかかわらず対策を怠った「不作為」が問われています。

最近は、直接事故に関わった当事者のみならず、企業の安全管理体制の不備として、安全管理者や経営者の責任が重要視されています。特に三菱自動車の事件以来、企業の幹部に安全責任を問うようになってきています。

三菱自動車やJR西日本の事故では一般市民に大きな犠牲者を出したことが「企業の社旗的責任」を果たしていないことの現れです。英国では、すでに企業を殺人罪で起訴できる法律が整備されていますが、日本では企業を罰することができないので、企業の経営者幹部が罰せられることになっていくと思います。

「安全をすべてに優先する」というスローガンが建前だけで終わらないように、実効性にある物にする必要があります。

2009年7月17日金曜日

ナイトクラブのリスクアセスメント

HSE(英国労働安全衛生庁)では、中小企業向けの簡易なリスクアセスメントである5ステップリスクアセスメントで、多くの業種のアセスメント事例を公表しています。

そのなかで、ナイトクラブのリスクアセスメントというのがあります。
"Example risk assessment for a nightclub"

このような例も危険源(hazard)の特定の参考になります。

危険源としては(What are the hazards?)
・火災 :従業員及び客が煙、燃焼、建物の崩壊による重大な災害
・高所からの墜落 :出演者が高いステージから墜落する、掃除、メインテナンス、照明係がはしごなどから転落し怪我をする
・転倒および転落 :従業員及び客が床で滑って転倒する、躓いて転倒する
・感電 :従業員及び客が電気器具の絶縁不良により感電する
・騒音 :従業員が長期間大音響にさらされることにより難聴になる
・暴力 :従業員及び客が喧嘩に巻き込まれ怪我をする
・ガラス片による切創 :従業員及び客は窓ガラスや鏡とぶつかることにより切創する
・ガス :従業員及び関係者はボイラーの爆発などにより中毒する
・高温 :従業員及び客は高温により熱中症になる
・注射針 :従業員は捨てられた注射針に刺さる
・重い物の持ち運び :従業員は重い物を持ち運ぶ際、腰痛になる
・運搬 :従業員は運搬車両に轢かれる
・CO2 :従業員はビール用のボンベよりCO2が漏れることにより酸欠になる
・アスベスト :従業員、特にメンテナンス者は建材に含まれているアスベストに被ばくする
・花火 :花火を使用することによりパニックになる
・レーザー :従業員及び客はレーザーの不適切な使用により目を傷める
・煙幕 :従業員はドライアイスを使用することにより皮膚を傷める。発煙及びミストは目、鼻、気管の病気を起こす
・飛来落下 :ぶら下げている飾りや額などが落下して怪我をする

たかだか、ナイトクラブでも多くの危険源があり、それに対するリスク低減対策を誰が、いつ、どのように行うのかを詳しく述べられています。

資料参照先
http://www.hse.gov.uk/risk/casestudies/pdf/nightclub.pdf

2009年7月13日月曜日

現場において土木技術者はスマートであれ

「現場において土木技術者はスマートであれ」
これは戦前の帝国海軍の伝統である「海軍士官は、スマートであれ」という格言から借用したもので、現場では技術者はスマートであってほしいと願うものです。



このはなしは、司馬遼太郎の「街道をゆく42 三浦半島記」にでてきます。


海軍士官は明治時代にイギリス海軍将校から徹底的に大英帝国の海軍魂を教え込まれました。そのなかで生活習慣として強調されたのが、「5分前の精神」です。海軍では「総員起こし5分前」に始まり「消灯5分前」に終わります。5分前には次の作業に掛かる準備を完了しておくということですが、建設業でも次の作業にかかる前には、その準備を終わらしておくのと同じです。


その場でバタバタせずに、予め周到に準備したことをスマートで淡々と進めることです。きちっと準備をし作業に取り掛かるときは決められた手順に従って紳士のように落ち着いて行動をしなければなりません。



建設業では5S、すなわちSeiri(整理)、Seiton(整頓)、Seiso(清掃)、Seiketu(清潔)、Shitsuke(躾)が基本になっていますが、海軍士官の遵守すべきものとして3S、すなわちSmart(機敏)、Steady(着実)、Silent(静粛)がありました。
この言葉は、千変万化する海上において、すべての行動が予め手順を定め機敏で着実であることが要求されます。そのためには、発令者以外は静粛を保ちサイレントでなければなりません。



今の海上自衛隊では「スマートで目先が利いて几帳面、これぞ船乗り」に変わっています。第一に「スマート」が掲げられたのは、艦上では万事がスマートに行なわなければ事故につながるという帝国海軍の伝統を引き継いでいます。そして、目先が利いて几帳面とは、いつも先のことを考え手順よく事を運べということであり、几帳面が重視されたのはちょっとしたミスや手抜きが、大きな災害につながるからです。海軍でもリスクアセスメントの考え方を取り入れていたことになります。



土木技術者も、工事現場は状況が刻々と変化しますが、常に次の作業のリスクを考え作業手順を定めておき、作業するときにはスマートに作業手順に従って実施することが重要です。たとえ予定外であることが起こってもスマートに対応する。



建設業と海軍は通じるところがあります。

2009年7月10日金曜日

5ステップ・リスクアセスメント

リスクアセスメントの普及が相変わらず低調ですが、諸外国でも似たような状況です。

その中でも英国は早くからリスクアセスメントを取り入れ、成果を挙げています。英国でも中小企業や個人企業におけるリスクアセスメントの普及が課題になっていて、そのためHSE(英国労働安全衛生庁)は簡易なリスクアセスメントを導入しています。

「5ステップリスクアセスメント」といわれるもので、HSEがインターネットに掲載しています。
中災防ホームページに和訳リーフレットを掲載

HSEホームページ
http://www.hse.gov.uk/pubns/indg163.pdf

主な特徴は、リスク評価の方法が簡便であることです。
ほとんど同じですが手順は以下の通りです。

ステップ1:どんなハザードがあるか?

ステップ2:誰がどのような危害を受ける可能性があるか?/国内のリスクアセスメントの違いとして、全ての関係者が対象であり、通行人などの一般公衆も明確に対象としていることです。

ステップ3:現在すでに行っていることは何か?、
さらに必要な措置は何か?/「合理的に実施可能な」あらゆる対策を行うときの判断材料として、今まで公表されている優良事例と比較することを提案している。

ステップ4:リスクアセスメントをどう実行に移すか?/実施担当、実施期限、実施完了日

ステップ5:リスクアセスメントの見直し

実施例を見ると、質問形式になっていて可能性や重篤度の数値評価を簡便にして誰でも使いやすくしています。
そして、業種別にリスク低減一覧表を公表していて参考にすることが出来ます。

国内のリスクアセスメントもあまり四角四面に考えず、このような簡便な方法を取り入れることも普及の一つの手段でしょう。

2009年7月7日火曜日

いい加減な始業点検

現場を回っていてよく目に付くことですが、始業点検記録を見るとキッチリつけられているが現場で実物を見て点検の有無を確かめてみるとじつにデタラメが多い。

その典型がワイヤーロープの点検です。月初めにワイヤーロープを点検しテープを巻く習慣が定着していますが、点検もせずにただ単にテープを巻く行為をしていることが多いようです。
月が変わると違 う色のテープを巻けばよいと思っている風潮があります。杭打ち業者だからといって安心はできません。先日も確認してみると、クレーンのメインのワイヤーロープが錆びていたり、フックのコッター止めを逆に止めていたり、素線が半分切れかかっているもの、ストランドが緩んだものや、最悪は玉掛に台付ワイヤーを使用して いるケースもありました。
それでもプロの杭打ち屋さんなのだろうかと疑うばかりです。

現場にどっぷり浸かって一日中様子をみているといいかげんな現実にあ然とします。元請け職員がキチッと業者を指導していないし、現地で現物を確認していない。指導する能力もないのではないか。

HONDAの本田宗一郎さんが実践した「三現主義」(何事も現場に出て、現物を見て、現実を確認しなければ良い物づくりはできない)に立ち帰ってほしい。
職員が全て確認していたら体がいくらあっても足りません。事業者を指導するしかないのですが、書類にこだわらずとにかく実際に点検を行ってもらいたいものです。

2009年7月3日金曜日

登山中の飲酒

運動中に飲酒するのはとんでもない話のように思えますが、意外に多いようです。

代表的なのがゴルフです。
英国の長い歴史の中で既得権として認められてきました。ゴルフが18ホールで1ラウンドなのは、ホールごとにスコッチを一杯ずつ飲んで回ってボトルが空になったところが、18ホールだったからという伝説があります。
荒涼としたスコットランドの風景を思い浮かべると分かるような気がします。

そして、登山にもお酒がつきものです。
頂上に上ったときの。山上小屋前のテラスでのむ生ビールは最高です。
でも、その一杯がいつの間にか大宴会になることが多いです。そのために下界からわざわざ重い酒や焼酎を担ぎ上げ宴会の段取りをするのです。

ゴルフも登山も元は紳士のスポーツです。だから節度を守り他人に迷惑をかけない程度しか飲まないのが鉄則です。

大量に飲酒すると人によっては急性アルコール中毒になり、アルコールやその中間代謝物であるアセトアルデヒドが脳細胞の酸素を取り込み、一種の低酸症に陥ります。高所では低地では酔わない人も少しの量で酩酊し、注意力が低下して転倒や転落する危険性が高くなります。

2,000m以上の山では飲酒は紳士がたしなむ程度に抑えるべきと考えます。
大宴会は下山してから駅前で盛大に行いましょう。

2009年7月1日水曜日

海の安全

「海守」のブログで海の安全を特集しています。海の安全で言えることは、そのまま登山でも言えることです。非常に参考になることが述べられています。

まず第一に取り上げているのが離岸流です。毎年300人が海水浴中に水難事故に遭い、そのうちの約4割がなくなっているそうです。

次に海上保安庁の「海水浴の大原則」を取り上げています。この大原則は登山でもいえることです。

1.十分な準備運動をする
当たり前だけどやらない人が非常に多いです。山ではストレッチ体操が最適です。

2.飲酒後、絶対に海に入らない
アルコールは注意力や判断力が低下し、不安全行動を制御できなくなります。また、飲酒者は、低体温症候群を起しやすいので、知らぬうちに体の自由が利かなくなります。山小屋でも飲酒による危険性をもう少しアピールすべきです。

3.気象条件に注意する
海では急に天気が急変することがあります。辺りが暗くなって急に風が吹き嵐になり、しばらくして何事もなく穏やかになることがあります。海でもそうですが、山では昔から言われている観天望気が必要ですが、山小屋に衛星放送テレビが完備するようになり、だれも天気図を書かなくなり、観天望気もしなくなりました。

4.浅瀬でも波に気をつける
浅瀬でも急に高い波がくることがあり注意を要します。

5.体温の維持に気をつける
海や山で気をつけなければならないことにハイポサーミア(低体温症候群)があります。これは、長時間水に浸かっていたり、濡れたまま風にさらされていたりすると発症します。体温維持ができなくなると、意識障害、代謝機能障害などに陥り、中・重度になると自力回復は難しく、生命の危険まで招くこともありますので、注意が必要です。つまり、体の震えや唇が紫にあるといった症状は体の危機反応です。

海でも山でも自然の中で活動する場合、同じような注意が必要です。

一部「海守ブログ」の文章を引用させて頂きました。詳しくは、「海守ブログ」を参照してください。
http://blog.canpan.info/umimori/archive/388