2010年3月31日水曜日

労働安全衛生コンサルタントの合格発表

3月24日に、労働安全衛生コンサルタント試験の合格者が発表されました。

合格された方々は、毎日の勉強と安全衛生の指導が、合格に結びついたとものと思います。

次は登録手続きがあります。
労働安全コンサルタントは、技術士と同様に登録しないとコンサルタントの名称を使用することはできません。
まず最初に、日本労働安全衛生コンサルタント会のホームページの「労働安全衛生コンサルタントの登録」の項目に従って登録手続きを行ってください。ただし、企業に勤めている人は、企業内コンサルタントになります。事務所の場所は会社の所在地、事務所名は会社名にするか、または自宅を事務所にすればよいです。現在コンサルタントの多くが企業内コンサルタントなので特に問題ありません。
企業にいながら更に勉強して独立するのも一つの方法です。

日本労働安全衛生コンサルタント会への入会は、弁護士や医師のように義務づけられていません。だけど入会することを勧めます。
コンサルタント登録と日本労働安全衛生コンサルタント会への入会は、まったく別の手続きです。入会する場合は、新たにコンサルタント会へ入会手続きをしなければなりません。
労働安全コンサルタントは名刺に資格名称を印刷するだけでは何の意味もありません。医師と同じように労働者の命を預かるエンジニアです。日本労働安全衛生コンサルタント会へ入会し経験を積むとともに自己研鑽し、コンサルタントの社会的地位を高める必要があります。また、退職後独立するのであれば今のうちから入会しておいたほうが得策です。

特に地方では組織が小さいのでいろんなことに参加する機会が多く、他業種の安全衛生担当者と交流することができたいへん有益です。少々会費は高いですが、自分への投資と思って入会することをお勧めします。

入会したら、登録時研修を必ず受けてください。それと大阪と東京で開催される安全研修は業務にも有益です。労働安全コンサルタントも国際に認証されうる資格を目指してCPDを行っています。規定CPD単位を修得するとCSP労働安全コンサルタント(Certified Safety Professional Consultant)の称号が与えられます。これはアメリカなどの資格を意識したものです。

わたしは、アメリカの安全技術者協会(American Society of Safety Engineer)にも入会しました。色んな文化の安全衛生の考え方に接すると、今まで行っていたことが単なる基準屋に過ぎなかったことを感じます。型にはまった安全管理ばかりでなく、異業種の人と交流すると自らの業務の改善にも役立ちます。

試験の合格は、セーフティー・エンジニアーとして出発点にたったに過ぎません。
今回の合格者のこれからの発展と活躍を応援します。

2010年3月24日水曜日

テネリフェの悲劇

テネリフェの大惨事とは、ヒューマンファクターが連続して同時に現れ、その連鎖を最後まで断ち切ることができず、航空機のクルーたちの心理状態が悪化していって航空機史上最悪の大惨事となったものです。ヒューマンファクターの研修で必ず取り上げられる内容です。

「機長の真実 〜墜落の責任はどこにあるのか〜」(著者:デービッド・ビーティ、訳者:小西 進)でヒューマンファクターについて詳しく説明されています。
以下に内容を抜粋します。

  1977年3月27日、スペイン領グラン・カナリア島、ラス・パルマス空港乗客ターミナルで爆弾が爆発した。二つ目の爆破予告も受けていた。空港は直ちに閉鎖されたため、このとき、ラス・パルマスに向かっていたる航空機のなかにロサンゼルスからのパンアメリカン航空1736便とアムステルダムからのKLMオランダ航空4805便のボーイング747型機がいた。

  KLM4805便は13時38分、テネリフェの滑走路に着陸したが、空港は臨時着陸の飛行機でいっぱいになりはじめていた。天候は良好だった。その37分後にパンナム機が着陸したが、エプロンはすでにふさがっており、何機かは誘導路上に駐機していた。KLM4805便は滑走路の先端付近に駐機しており、その後ろにボーイング737、727、C8がいた。パンナム機はその後ろに駐機した。
すでにフラストレーションと疲労が重なっていた。時間に迫られ、早く出発したいという願いから、KLM機長は最初、乗客を機内にとどめていたが、その後乗客を降ろした。パンナム機長のほうは乗客を機内にとどめたままだった。

  ラス・パルマス空港が再開され、管制機関がパンナム機に出発許可を出したとき、クルーは滑走路に向かう通り道が、KLMジャンボ機にふさがれているのに気がついた。それ以上時間を無駄にしたくないので、副操縦士と航空機関士が飛行機を降り、KLMジャンボ機と他の飛行機の間隔距離を測りに行ったが、安全にすり抜けるのは無理だと認めざる得なかった。

  KLM機の乗客がターミナルからバスで戻りはじめたが時間がかかり、1時間後、KLM機が管制塔を呼び出し、出発予定時刻の確認と燃料を追加した。ラス・パルマス空港で燃料補給をせず、アムステルダムに折り返す時間を節約しようとした。

  KLM機はようやくエンジン始動の許可を取り、そして滑走路へ移動を開始した。やっと動きがとれるようになり、パンナム機もあとにつづいた。天候は悪化し、深い霧に覆われた。KLM機は滑走路を逆走する許可を求め、管制官もそれを認め、三つ目の誘導路で滑走路を開けるように指示した。副操縦士は聞き間違えて「最初の誘導路」と復唱してしまったが、管制官が指示を変更した。KLM機は滑走路を先端まで逆走し、先端で、180度旋回して機種を離陸方向に向けることになった。副操縦士は管制指示を復唱したが、機長は視界が悪く地上移動に集中するあまり、無線のやりとりはほとんど聞いていなかった。

  一方、パンナム機も同じ滑走路を逆走し、三つ目の誘導路で滑走路を出るように指示を受けていた。両機とも管制官の強烈なスペイン語なまりの英語の指示に手こずっていた。パンナム機は霧と疲れから3番目の誘導路を行き過ぎてしまった。

  KLM機は首席教官である機長と95時間しか飛行経験がない副操縦士の組み合わせであり、副操縦士は機長に対しものを申す環境ではなかった。機長が180度旋回の操作を完了したとき、副操縦士は航空路管制承認を取ろうとしているところであった。それにもかかわらず、機長はスロットルを開きはじめた。副操縦士がちょっと待つように機長に言ったが早く飛び立つことに気持ちが集中していた。依然視界が不良でパンナム機が見えない。副操縦士が管制承認を復唱途中で、機長は離陸を開始した。

  管制官が、「オーケー...(1秒間の沈黙)...離陸は待機されたい。後ほど指示する」と指示したが、その沈黙の瞬間、パンナム機が自分の所在を明らかにしようと割って入った。しかし、無線は混信してキーという雑音となってしまった。
管制官がパンナム機に「滑走路を明け渡したとき通報するように」というやり取りをしているのをKLM機の航空機関士が聞いて機長に疑問を投げかけたが、機長の思い込みに打ち消されてしまった。

  その後、KLM機は離陸決定速度に達し離陸したが、目の前に現れたパンナム機の後部胴体の上を滑って破壊し、150M先に落ち、爆発炎上した。KLM機は248名全員が死亡し、パンナム機は335名が死亡した。

  その後の調査で事故原因はヒューマンファクターに絞り込まれた。そのうち特定されたものは、疲労、重責、強迫観念、フラストレーション、時間の制約、操縦室内での権威、乗客を喜ばせたいという願望などがあげられた。
時間的予測ができないという要因、事態の展開が不確実という要因が加わり、そしてその他複数のヒューマンファクターが複合的に絡み合い、そのエラーチェーンを断ち切ることができなかったことが悲劇につながった。

  ヒューマンファクターを本人の問題で片付けては何の解決にもならない。エラーチェーンを断ち切るための設備や業務要領の改善が必要になるでしょう。

2010年3月17日水曜日

技術者の自己研鑽

先週、技術士会主催のCPDに関するセミナーがあった。

CPDを如何に発展し有効あるものにするかと、いわゆる「実質化」がテーマであった。現状はどうかというと、国土交通省の技術評価制度への加点のためのCPDポイント獲得という流れと、技術者が本来の自己研鑽のために行うCPDとがあり、前者は技術レベルは非常に低いが多くの参加者がいる。しかし、後者の技術者本来の自己研鑽は技術レベルが高いが参加者がまだかなり低い。資格を取得した以後、何もしていない一般の技術者がほとんどを占めると思われます。

なぜそうなるのか。
まずあげられるのが、日本の資格は永久資格で更新の必要がないものが多いことです。このことが欧米から同等資格としてお互いに承認できない原因になっています。
そこで日本技術士会や日本労働安全衛生コンサルタント会は、継続研鑽(CPD)制度を導入しているわけですが、更新制というハードルがないために、多くの技術者が理解を示さないのが現状です。言い換えれば国土交通省の総合評価の対象者でなく、資格の更新制度がなければ、何も苦労して自腹を切ってまで講習会などいく必要がないということです。CPDを行わなくても実害がないと思うのが本音でしょう。

今、技術者の技術力の低下が懸念されています。今後国内の社会基盤整備のための投資がさらに減少し、技術者の活躍の場が狭くなってきます。質の高い技術者しか残っていけなくなります。また海外に出て業務をする機会も増えてきますが、技術者として胸を張って出て行けるでしょうか。

今の現状の技術力では、欧米の技術者と対等に勝負できません。

この現状を打破するには、技術士や労働安全衛生コンサルタントの資格登録の更新制へ移行し、再登録審査にCPDを活用し、実質的に技術者の室を高めることです。そのためには組織を充実させる必要があり、弁護士や医師制度のように、全員が協会に所属し、社会の認知を高める必要があります。そして米国のPEやSafety Engineer協会、英国のCEなどと連携を図り、全世界で認められる資格にするべきです。

技術者が技術の勉強を行わなくなったら、もう技術者ではありません。

2010年3月10日水曜日

感染症の脅威

世界経済がグローバル化し、人と物が瞬時に行き交うようになると、人類に影響を及ぼす感染症が瞬く間に世界中に広がる危険性があります。

したがって、アフリカの遠い国で流行している出来事と傍観していると、いつの間にか我々の足元に迫ってくるかもししれません。
そのなかでもウイルスの脅威は深刻で、まだ治療法が確立していないものもあります。

代表的なものは、
1.エボラ出血熱 :フィロウイルス科エボラウイルスによる感染症。自然宿主は不明で、ザイール、スーダンで流行し、致死率は50〜89%

2.マールブルグ病 :同じくフィロウイルス科のマールブルグウイルスによる感染症。アンゴラ、コンゴ、ケニア、ジンバブエで流行。

3.ラッサ熱 :アレナウイルス科ラッサウイルスによる感染症。西アフリカに生息するマストミスが自然宿主で、西アフリカで流行している。潜伏期間は5〜21日で致死率は感染者の1-2%。

4.クリミア・コンゴ出血熱 :ブニヤウイルス科ナイロウイルス属に属するクリミア・コンゴウイルスによる感染症。
これらは厚生労働省の第1類感染症に分類されており、対処療法以外に今のところ治療法が確立されていません。

そのほかにも依然恐ろしい感染症があります。
5.狂犬病 :ラブドウイルスによる感染症で、多くの哺乳動物が自然宿主になっています。依然、世界中に広がっていて、動物に咬まれ発症した場合、致死率は100%といわれています。世界で年間5万5千人の人が死亡しています。しかし、咬まれた直後にワクチンを投与すると回復する可能性が高くなります。
東南アジアで野犬を多く見かけますが、絶対に近寄ってはいけません。

6.インフルエザ:インフルエンザウイルスはカモからいろんな動物に媒介されたといわれており、カモの体内には全ての型のウイルスが発見されています。インフルエンザは風邪と似た症状ですが、新たな新型インフルエンザウイルスが出現し、突然重篤な症状を示し、人類にとって危険なウイルスです。
今回のインフルエンザウイルスA/H1N1/Pandemic2009は、感染力は強いですが病原性が季節性インフルエンザと同程度であったため、人類に取って深刻な問題にまで発展しいと思われがちです。

今一番危惧されているのが、高病原性の鳥のインフルエンザウイルスの変異による人から人への感染です。
鳥にしか発症しなかったインフルエンザウイルスが変異して人へ感染する過程は次のように考えられています。
インフルエンザウイルスを腸管内に保有したカモが中国南部に飛来し、そこでウイルスを含んだ糞を排泄します。
   ↓↓↓
豚は、鳥のインフルエンザウイルスと人のインフルエンザウイルスの両方に感染します。
インフルエンザウイルスは8本のRNAを持っており、同じ豚の体内に2種類のインフルエンザウイルスが感染することになり、これら2つのウィルス間でRNAの組換えが起こり、人に容易に感染する新しいタイプのウイルスが誕生します。
   ↓↓↓
新型のインフルエンザウイルスが人へ感染します。これまでに以下のヒトの鳥インフルエンザ感染事例が確認されており、次の段階のヒトからヒトの感染が危惧されています。

私も先週、インフルエンザウイルスA/H1N1/Pandemic2009のワクチンを接種しました。まだ遅くはありません。少しでも基礎免疫を高める方が良いと思われます。

2010年3月3日水曜日

リスクアセスメントとKYの違い

建災防はKY(危険予知)活動にリスクアセスメントの手法を取り入れています。

では、KYはリスクアセスメントの一種などでしょうか。
どちらも事前に危険を洗い出して対策をとろうとする安全活動です。そのなかで、リスクアセスメントは労働安全衛生法で事業者が実施することと定められていますが、KYは労働安全衛生法に定められてなく、あくまで自主的な活動です。

リスクアセスメントの目的は、工事着手前にある程度時間をかけて危険性及び有害性を徹底的に洗い出してリスク低減対策を作業手順に反映させることです。それに対してKYは今からすぐ始まる作業や行動途中にその作業の中でどんな危険があるか特に重要なものを取り上げ直ぐに対策を立て実行することにあります。したがって、リスクアセスメントのように徹底的に危険性及び有害性を洗い出して対策を立てる時間的余裕はありません。どちらも重要な活動ですがリスクアセスメントとは手法が別物と考えるべきです。

KYはJAFの雑誌に毎回取り上げられています。たとえば自動車を運転している途中で信号にさしかかり歩行者がヨロヨロと歩いている。それに対して車道に飛び出すかもしれないから徐行しよう、今日は長距離を走るので眠くなるかもしれないので、早めに休憩を取るようにしよう、差し迫った危険性を考えるもので、リスクアセスメントのようにあれやこれや洗い出してリスクの見積もりをしている時間はありません。経験的にこの作業ではこういう危険があるということが判らなければなりません。その手助けとなるものがリスク評価表です。KYで危険性を発表するときに、前もってこの作業のために行ったリスクアセスメントを利用すべきです。せっかくリスクアセスメントを行っていてもKYや作業打ち合わせに利用されていないのが現状です。

KYにリスクアセスメントの見積もり手法を導入するのは良いと思いますが、逆にリスクアセスメントをKYのように簡単に終わらせては行けません。いろんな人の経験より危険性と有害性を徹底的に洗い出すことが最も重要です。リスクの見積もりは最も重要な要素ではありません。メンバー全体の経験レベルの違いにより見積もりも大きく変わります。ただし、見積もりは時間が解決することですが、洗い出しを十分行っていないと見積もりの意味がなくなってしまいます。

リスクアセスメントの普及はまだこれからです。