2011年4月27日水曜日

重心とメタセンター

港湾工事では、船舶や作業台船、フローティングドッグ、ケーソン曳航に際し、転覆しないように安定の検討を行うことが重要になる。
特に復元力では、メタセンターというファクターが重要である。
メタセンター(metacenter)とは、浮体を傾けたときの新しい浮力の中心を通る鉛直軸が、傾ける前の浮力の中心軸と交わる点で、傾心ともいう。メタセンターが重心よりも上にあれば、浮体は傾斜したとき、元に戻ろうとするので、浮体は安定する。
作業台船が転覆しない条件
G1:作業台船全体の重心位置(下向きの力)
G2:全体の重量が上に移動した場合の重心位置(下向きの)力
F :浮心・浮力の中心を通る鉛直軸/傾くと移動する(上向きの力)
M :傾ける前の浮力の中心軸と傾けたときの浮力の鉛直軸の交点、メタセンター
G-M: 2点間の距離をメタセンターハイという

Case.1 重心位置GがメタセンターMより下にある場合 →復元する
G1にかかる下向きの力とFにかかる上向きの力のモーメントにより、作業船の傾きを戻す方向に働く。
Case.2 重心位置GがメタセンターMより上にある場合 →転覆する
重心GがG2に移った場合、モーメントはより傾ける方向に働く。
Case.3 重心位置GとメタセンターMが一致する場合 →傾斜したままの状態
特にフローティングドックを選定するときは、フローティングドックの形状によりメタセンターの位置が微妙に影響することに注意が必要になる。

2011年4月20日水曜日

効果的な送り出し教育

大手ゼネコンより、協力会社として一部作業を請け負うとき、従事する従業員に「送り出し教育」を実施するように指導されることが多い。

元請会社から基本的な資料を渡され、それに基づいて協力会社が従業員に教育をすることになっているが、本当にどこまで真剣に教育して従業員を送り出しているのかは、その場にいないので正確なことはわからないがどうも疑わしい。書類だけ作成して元請会社に提出しているのではないだろうか。

送り出し教育は書類を作成するのが目的ではなく、立派な書類を求めるのは間違っている。
建設現場には多くのハザードがあり、労働者が守るべきルールも多くある。それを、事業者の責任だからといって何から何まで教育したように書類で残すのはどうかと思う。労働者は多くのことを書類で指導されてもほとんど頭の中に残らないであろう。ただ最後に受講のサインをするだけである。

効果的な教育をするには危険のポイントを絞り込む必要がある。その一つの方法としてミニマム・スタンダードというのがある。ミニマム・スタンダードとは、大学生に学内の規律として「これだけは最低限守りましょう」ということに使われている。

従業員にあれもこれも守れというのではなく、その現場の作業における特有のハザードに対して、もっとも重点管理対策とすべき項目を3点だけ絞り込んで教育する。この考え方はリスクアセスメントにおける管理策の優先順位と同じである。リスク評価などの形式的なことはせず、過去の経験から3点を絞り込むことで十分である。そして現場からの意見をフィードバックして見直していけばよい。

安全教育も簡略にすることで効果が上がると考える。けっして責任回避を考えてあれもこれもと言わないことだ。

2011年4月13日水曜日

地震津波災害の復旧作業のリスク

地震・津波災害の復旧作業は、緊急を要する作業であるが、それでも十分に作業手順を検討し、事前にリスクを把握した上で作業を行う必要がある。

地震・津波災害の特有のハザード(危険性および有害性)は以下のようなものがある。

・不安定な構造物の撤去に伴う構造物の倒壊、挟まれ
・不安定な場所からの墜落転落
・瓦礫に躓き転倒
・ゴム長で出歩き釘を踏み抜く
・釘や金属片による切創
・ガラス片による切創
・粉塵による塵肺
・浮遊する鉄粉が目に入る障害
・浮遊するアスベストを吸入
・電柱のトランスからの漏洩PCBによる汚染
・切断電線に接触による感電
・ソーラーパネルの端子に接触して感電
・流出油による汚染
・浸水した箇所を歩いて深みにはまり溺れる
・大気中に浮遊した放射性物質による被曝
・土中に堆積した放射性物質による被曝
・ダイバーが放射性物質で汚染された海水を飲んで被曝
・工場の化学薬品が漏洩してかぶれる
・発電所タービンのハイドラジンが漏洩してかぶれる
・海上浮遊物と接触し、潜水士のエアーホースが絡まりパニックになる
・廃鉱の残土から重金属が流出し接触する
・ガス管やプロパンガスのガス漏れにより火災が発生し火傷を負う
・ガス管やプロパンガスのガス漏れによる爆発
・重機が錯綜して間に挟まれる
・移動式クレーンの作業半径が届かず無理をして転倒、挟まれ
・法面が緩み土砂崩壊に巻き込まれる
・瓦礫で手を切り破傷風による感染
・衛生状態悪化による感染症に感染する
・災害のトラウマによるパニック
・ストレスによる精神不安定
・仮宿泊設備で疲れが取れず過労
・ストレスが溜まった人同士のけんか
・余震、津波による二次災害

周りに避難者がいる中で一日でも早く復旧しなければならないという気持ちから、少々危険が想定されていても無理な作業をしてしまう。いかなる場合においてもリスクを認識した上で作業を進めてもらいたい。

2011年4月6日水曜日

電離放射線障害防止規則の特例

国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従って、厚生労働省は電離放射線障害防止規則の特例についての省令を設けました。

ICRPが日本に緊急時の被曝線量の引き上げを勧告したのは異例のことです。

本来、作業員の安全を第一に考えるのに、通常こんな勧告をすることはありません。それだけに、今回の福島原発の深刻さを国際機関が憂慮しているものと考えます。一日でも早く原子炉を安定状態にして、チェルノブイリのように放射性物質を世界中に拡散させることを避けたいということです。

ICRPの基本的な考え方は、一般人の積算被曝線量を1年間あたり1mSvとしています。今回の勧告では暫定措置として100〜20mSv/年としています。政府は20mSv/年を避難指示の根拠にしている。

被曝線量と人体への影響は、以下の通り
        50,000mSv:  全身障害、48時間以内に死亡
         10,000mSv: 意識障害
           5,000mSv: 下痢や出血、一時的な脱毛
           1,000mSv: リンパ球の減少
              250mSv: 白血球減少(一時にまとめて受けた場合)
              250mSv: 放射線従事者が緊急時にさらされる場合の限度値/1回(特例措置)
              100mSv: 放射線従事者が緊急時にさらされる場合の限度値/1回
                50mSv: 業務に従事する人の年間被曝量の限界(かつ100mSv/5年)
                 20mSv:   政府が決定した一般市民の避難基準 年間積算被曝線量
               6.9mSv: 胸部X線CT/1回
            2.4mSv: 1人当たり自然放射線/年
            1.0mSv: 一般市民の被曝限度/年(医療と自然由来は除く)
            0.6mSv: 胃のX線検診/1回
             0.05mSv: 胸のX線検診/1回

原子炉の緊急事態のための作業に従事するの場合、厚生労働省は労働安全衛生法で100mSv/回としています。しかし、100mSvでは作業時間が十分に取れないためICRPは500mSvを勧告し、厚生労働省は電離放射線障害防止規則のなかで福島第一発電所に限り特例措置として250mSvを採用しました。

現地の大気放射線量が1000mSv/hの場合(原子炉建屋内外)

   被曝限度時間: 60min × 250 / 1000 = 15min となり実際の作業時間はほんの少ししかない。 
放射線被曝は、多量に被曝しない限りすぐに症状は出ないが、長時間を経て現れる晩発影響によるガン、白血病、放射線白内障がある。

きわめて低い放射線量についても線量と確率的影響は比例するという「直線しきい値なし(LNT)モデル」にしたがって、集団が被曝する場合に、その作業員達が生涯のうちで致死的な癌になる確立は以下のようになる。

ICRP勧告60では、1Svの放射線を生涯にかけて被爆したときに、生涯のあいだに生じる致死的なガンの発生確率を5%としています。

もし原子炉の状態が悪化し、高濃度の放射線物質が漏洩して周囲に拡散され、近隣の人口10万人の住民が大気放射線量200μSv/hで1日あたり8時間を3ヶ月に渡って被曝した場合

   生涯ガン発生人数: 100,000 × 200/1000 × 8 × 90 × 0.05/1000 = 720人

 一方、最悪事態を防止するために、原子炉内で延べ1,000人の作業員が積算放射線被曝限度250mSv/回で作業した場合

   生涯ガン発生人数: 1,000 × 250 × 0.05/1000 = 12.5人

 250mSvに引き上げて12人のガン患者が生じるという予測値になるが、この行為によって720人以上の住民を救うことができる。よって、政府としては、この特例措置によって基準値を引き上げたことは、危機的な原子力発電所の事故という状況下では社会が受容可能なリスクであると認めることを期待しているのであろう。しかしながら、作業している方たちは命がけで取り組んでいることが良くわかる。本当にご苦労様です。

 政府の発表は、時間当たりの放射線量は、X線と同様に問題にならないと説明しているが、積算放射線量で管理していくと多少なりとも危険性が見えてきます。この「直線しきい値なし(LNT)モデル」が、かならずしも当てはまるとは言い切れないが、このような考えもあるということは考慮する必要がある。なお、放射線従事者が緊急作業において250mSvの放射線に曝露すると、以後、実質的には放射線作業に従事できなくなる。

 今回厚生労働省が出した「電離放射線障害防止規則の特例に関する省令」は、極めて特例であり、原子力発電所の安全管理者は厳しく作業員一人ひとりの積算放射線被曝量を管理する必要がある。また、放射線従事者の特別教育(放射線障害防止法)を受けた者意外は、簡単に作業に加わることは避けたほうがよい。