2011年4月6日水曜日

電離放射線障害防止規則の特例

国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従って、厚生労働省は電離放射線障害防止規則の特例についての省令を設けました。

ICRPが日本に緊急時の被曝線量の引き上げを勧告したのは異例のことです。

本来、作業員の安全を第一に考えるのに、通常こんな勧告をすることはありません。それだけに、今回の福島原発の深刻さを国際機関が憂慮しているものと考えます。一日でも早く原子炉を安定状態にして、チェルノブイリのように放射性物質を世界中に拡散させることを避けたいということです。

ICRPの基本的な考え方は、一般人の積算被曝線量を1年間あたり1mSvとしています。今回の勧告では暫定措置として100〜20mSv/年としています。政府は20mSv/年を避難指示の根拠にしている。

被曝線量と人体への影響は、以下の通り
        50,000mSv:  全身障害、48時間以内に死亡
         10,000mSv: 意識障害
           5,000mSv: 下痢や出血、一時的な脱毛
           1,000mSv: リンパ球の減少
              250mSv: 白血球減少(一時にまとめて受けた場合)
              250mSv: 放射線従事者が緊急時にさらされる場合の限度値/1回(特例措置)
              100mSv: 放射線従事者が緊急時にさらされる場合の限度値/1回
                50mSv: 業務に従事する人の年間被曝量の限界(かつ100mSv/5年)
                 20mSv:   政府が決定した一般市民の避難基準 年間積算被曝線量
               6.9mSv: 胸部X線CT/1回
            2.4mSv: 1人当たり自然放射線/年
            1.0mSv: 一般市民の被曝限度/年(医療と自然由来は除く)
            0.6mSv: 胃のX線検診/1回
             0.05mSv: 胸のX線検診/1回

原子炉の緊急事態のための作業に従事するの場合、厚生労働省は労働安全衛生法で100mSv/回としています。しかし、100mSvでは作業時間が十分に取れないためICRPは500mSvを勧告し、厚生労働省は電離放射線障害防止規則のなかで福島第一発電所に限り特例措置として250mSvを採用しました。

現地の大気放射線量が1000mSv/hの場合(原子炉建屋内外)

   被曝限度時間: 60min × 250 / 1000 = 15min となり実際の作業時間はほんの少ししかない。 
放射線被曝は、多量に被曝しない限りすぐに症状は出ないが、長時間を経て現れる晩発影響によるガン、白血病、放射線白内障がある。

きわめて低い放射線量についても線量と確率的影響は比例するという「直線しきい値なし(LNT)モデル」にしたがって、集団が被曝する場合に、その作業員達が生涯のうちで致死的な癌になる確立は以下のようになる。

ICRP勧告60では、1Svの放射線を生涯にかけて被爆したときに、生涯のあいだに生じる致死的なガンの発生確率を5%としています。

もし原子炉の状態が悪化し、高濃度の放射線物質が漏洩して周囲に拡散され、近隣の人口10万人の住民が大気放射線量200μSv/hで1日あたり8時間を3ヶ月に渡って被曝した場合

   生涯ガン発生人数: 100,000 × 200/1000 × 8 × 90 × 0.05/1000 = 720人

 一方、最悪事態を防止するために、原子炉内で延べ1,000人の作業員が積算放射線被曝限度250mSv/回で作業した場合

   生涯ガン発生人数: 1,000 × 250 × 0.05/1000 = 12.5人

 250mSvに引き上げて12人のガン患者が生じるという予測値になるが、この行為によって720人以上の住民を救うことができる。よって、政府としては、この特例措置によって基準値を引き上げたことは、危機的な原子力発電所の事故という状況下では社会が受容可能なリスクであると認めることを期待しているのであろう。しかしながら、作業している方たちは命がけで取り組んでいることが良くわかる。本当にご苦労様です。

 政府の発表は、時間当たりの放射線量は、X線と同様に問題にならないと説明しているが、積算放射線量で管理していくと多少なりとも危険性が見えてきます。この「直線しきい値なし(LNT)モデル」が、かならずしも当てはまるとは言い切れないが、このような考えもあるということは考慮する必要がある。なお、放射線従事者が緊急作業において250mSvの放射線に曝露すると、以後、実質的には放射線作業に従事できなくなる。

 今回厚生労働省が出した「電離放射線障害防止規則の特例に関する省令」は、極めて特例であり、原子力発電所の安全管理者は厳しく作業員一人ひとりの積算放射線被曝量を管理する必要がある。また、放射線従事者の特別教育(放射線障害防止法)を受けた者意外は、簡単に作業に加わることは避けたほうがよい。

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