2011年5月25日水曜日

災害における正常化バイアス

東日本大震災では、テレビなどで盛んに大津波の警報を発していたが、地震の後、家の様子を見に戻って津波に巻き込まれて亡くなった人が多かった。予測を過小評価したか情報が伝わっていなかったと考えられる。

今まで何回か地震速報と津波警報が出されたが、結果が予想された値よりも低かったことが多く、今回も同じように大丈夫だろうと勝手に思い込む人が多かったのだろうと思われる。特に現代人は、情報が溢れているために、実際に危険に直面してもそれを認めようとせず、また危険に対する感受性も劣ってきている。例えば、台風が接近して大きなうねりが押し寄せていて波浪警報が出されていても、警報に従わずサーフィンをする人が多い。

これは、ヒューマンファクターの一つでもある。人間の心は、予期できない異常や危険に対して、ある程度鈍感にできている。人間は、常に入ってくる情報に対して過度の緊張とエネルギーを使うことによる心身の疲労を回避しようとする。ある範囲までの異常は、異常だと感じずに、正常の範囲のものとして処理するようになっている。これは正常化バイアスといわれるもので、本当に身に迫る危険を危険ととらえずに、危険回避行動をとらないようになってしまう。

最近は、携帯電話で緊急地震速報が流されるが、予測よりも小さいときや地震がこなかったりする。しかし、このような情報が連発されることによって、その後の地震災害のリスクを過小に評価してしまう傾向に陥っている。人々は、警報を受け取っても、自分たちに危険が迫っていることをなかなか信じようとしなくなる。正常化バイアスが情報の信頼性に対してマイナスに働き、リスクに対して鈍くさせてしまう。

建設現場においても、死亡災害が起きたときは反省して二度とこのような災害を起こさないと心の中に深く刻み込むが、その後、小さな災害が発生しているうちに、だんだんその気持ちも薄れて行く。人間は、緊張が長続きせず、自然に心の緊張を回避しようとする。いかにタイムリーに緊張を与え、それをリスクと認識させるかが重要になるであろう。
情報に質とタイミングは非常に重要になってくる。

2011年5月18日水曜日

LOTO

LOTOは、宝くじのことではない。

Lock-out, Tag-out (LOTO)は、電気や化学産業においては、日本でもルールとして取り入れられている。しかし、建設部門では知らない人が多いと思われる。

停電作業を行う場合、通常、分電盤の電源スイッチを落として電源を切断し作業をする手順であるが、分電盤を開けたままにしておくと、停電作業を行っていることを知らない人が間違ってスイッチを入れ、作業員が感電する恐れがある。そのために分電盤は必ず鍵をかけ(Lock-out)、なおかつ作業中であることを表示する(Tag-out)。

バルブの開閉など、間違ってスイッチを入れることによって作業員が災害に巻き込まれる恐れがあるときに適応する。電気作業は、特に状態がわからないのでLOTOの管理が重要である。

欧米では、LOTO用のタグが販売されている。


国内の建設現場でも、このような簡単なカードと鍵で管理することを推奨します。
参考資料は、以下のとおりです。
http://www.geneseo.edu/~ehs/Lockout%20Tagout/Lockout%20Tagout%20Program.htm

2011年5月11日水曜日

快適職場形成促進事業の廃止

快適職場促進事業が平成22年度の事業仕分けの結果、22年度末をもって廃止される。

いったいなんだったのだろうか。
事業仕分けの評価はC、快適職場推進計画の認定件数を年間3,210件以上とする目標が達成できなかったことが挙げられていた。
この事業の主旨は、職場の心理的・制度的側面の改善方法、 及び職場における受動喫煙防止対策に関する調査研究を行う。また、事業場から申請される快適職場推進計画の技術的審査を行い、審査結果を都道府県労働局に報告する。さらに、快適な職場環境の形成に係る技術的事項等についての事業場からの相談に対応するとともに、快適職場フォーラム、職場のソフト面の快適 化のための講習会、都道府県快適職場推進大会の開催等を通じて、事業場における快適職場形成促進について普及啓発を行う、となっている。

うたい文句は良いが、政府が大金の予算を確保してどうしても行う必要がある事業であったのかと疑問を感じる。
快適職場形成促進事業を廃止することにより1.7億円を削減することができる。単に厚生労働省の業務を拡大させるために行っていた事業だったのか。

労働安全衛生に関する事業は、厚生労働省の焼け太りから分離し、米国のOHSHAや英国のHSEのように独立した行政機関として、労働安全衛生行政に専念すべきと考える。また、中央労働災害防止協会など各種災防団体への委託事業は全面的に廃止し、それぞれの災防団体も米国のASSEのように独立して事業を行うのが望ましい。そうすることによって、それぞれの組織が自らが創造する安全文化が生まれると考える。

2011年5月5日木曜日

不東、三蔵法師の決意

五月のゴールデンウィークに奈良薬師寺にお参りするのが恒例になった。
玄奘三蔵の御遺徳の顕彰と仏法興隆を願い、毎年5月5日に大祭があり、結縁者には招待状が送られてくる。
まず、金堂でお薬師さまに身体健康をお願いする。


薬師如来の両袖にいらっしゃる日光菩薩と月光菩薩は、それぞれ「智慧」と「慈悲」を表し、智慧と慈悲という働きが、必ず両輪相まって仏道に修業となっていくといわれている。
観自在、私たちは、物事をしっかり観ていけるように願いを持って発心します。よって慈悲の願いを悲願という、と薬師寺では解説してくれます。


これは大講堂です。天平時代の姿を再現したようです。


東塔(国宝)は、6月末から全面解体修理に入り、2018年まで見ることができなくなる。6月25〜26日に東塔大修理着工法要が行われます。明治の大修理がかなり杜撰で、このままだと地震の際に倒壊するといわれています。


玄奘三蔵院伽藍にある玄奘塔の正面には「不東」という額がかけてある。玄奘三蔵が唐を出発するとき、もう東には行かない(挫折して戻ってくることはしない)という決意です。プートン、すごい信念である。工事を着手するときもプートンの決意で安全管理を進めてもらいたいものだ。


今日は、ここで玄奘三蔵がインドへ教典を学びにいく伎楽が行われた。この写真は、それ以前に撮影したのものです。