2009年3月28日土曜日

人間の注意力に頼るのは限界がある

私の登山の話しです。

 大学時代はワンダーフォーゲル部に入部しました。
最初に新入部員を鍛えるために錬成合宿というのがあり、当時、1人50kg位の荷物を背負わされました。ザックに入れる荷物は、大鍋かテント、水の入ったポリタンク、それに重量調整用の石です。出発する前にバネ秤による重量チェックがありました。

 昔は、運動中水を飲んではいけないという考え方が一般的で、水を飲まず休憩も取らず歩かされました。
錬成合宿は北陸本線今庄駅から夜叉ヶ池に至るコースです。
苦し紛れに歩きながら木の葉についた朝露を舐め、私の足の爪は剥がれかけ血で真っ黒になりました。

 錬成合宿の目的は自分自身が己の体の限界を知り、極限を知ることによって山で遭難したときに冷静に行動できるようにするというものでした。まるで軍隊です。
こういう体育会系では新入部員も集まらなくなります。

翌年の錬成合宿が恵那山で行われた時、とうとう事故が起こりました。新入部員が意識朦朧として登山道に倒れました。すぐに日陰で寝かせ水を与え、服のボタンを外して扇いで体を冷やしました。意識はありましたが歩くことができません。すぐに合宿を中止して、山から降ろすことにしました。

被災者は、やや太っていておんぶして降ろす体力は我々にはなかった。さっそく、登山道脇の真っ直ぐな木を選んで切り、担架を作ります。一番簡単な担架は、上着を4〜5着ほど用意し、左右の腕にそれぞれ木を通します。細引きで服を固定して被災者を寝かせます。4人で担いで坂道を降ろしましたが、意識がしっかりしていない人間を担ぐと凄く重く感じます。なんとか夕方までに林道まで降ろすことができ、すぐに病院へ搬送しました。
重い熱中症であったため、回復したあと肝臓に障害を残しました。

我々が卒業した翌年の錬成合宿は伊吹北尾根で、とうとう熱中症による死亡災害が発生しました。水を飲むと早くばてるという間違ったことを叩きこまれていたために、同じような方法でしごきをおこない再発防止が徹底できなかったようです。今では考えられないトレーニング方法です。

自分たちだけの狭い世界で、精神論のみを優先した結果でしょう。
労働安全も、「労働者の注意力に頼る」ような方法はもう時代遅れです。

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