2011年3月2日水曜日

酸素欠乏症と酸素分圧の関係

酸素欠乏症は、一瞬にして多くの人の命をなくす怖い疾病である。

平地の空気の酸素濃度は、通常21%程度であり、人間はこの環境下で普通に生活していける。しかし、工事現場等のConfined space(閉鎖空間)では、酸素濃度が21%より低くなることがある。建設工事の中では、
・船や台船の鋼材の腐食(酸化)により船艙の酸素が消費されえる場合、
・建設中のマンションの部屋に内燃機関を持ち込んで酸素を消費するとともに一酸化炭素を発生する場合、
・井戸を掘削中に土中の鉄分に酸素を消費された低酸素の空気が流入した場合や硫化水素が発生する場合、
・実験室等でヘリウムが充満し、酸素が追い出されてしまう場合
   ・汚水や醗酵するものが入っている場合、
などがある。

通常、人間は酸素濃度が低くなると以下のようになる。
 ・18%: 安全限界
 ・16%: 呼吸、脈拍の増加、頭痛、悪心、はきけ
 ・12%: めまい、はきけ、筋力低下、体重支持不能脱落(死につながる)
 ・10%: 顔面蒼白、意識不明、嘔吐(吐物が気道閉塞し窒息死)

それでは、なぜ酸素濃度が低くなると人間に影響が出るのか、それは酸素分圧を理解しなければならない。
酸素分圧は、流体の体積あたりの酸素量を現す指標で、気体中の酸素分圧は、気圧×酸素濃度(純酸素を1.0として)であらわされる。平地(1気圧)の大気圧は760mmHgで、酸素濃度は、160mmHgである。
気道に入った空気について、大気圧から飽和した水蒸気分圧47mmHgを差し引いて酸素分圧をもとめると150mmHgとなる。肺胞には二酸化炭素が多く(40mmHg)、酸素分圧は100mmHg程度となる。さらに動脈中の酸素分圧は常に若干低いので、酸素は分圧の高い方から低い方に流れ、血液のヘモグロビンと結合して運ばれる。次に、体組織の細胞周囲の酸素分圧は20~30mmHgであり、動脈血と酸素分圧に差があるため、末梢の毛細血管では酸素が血液から組織液に移る。

したがって、大気圧で酸素濃度が16%の場合、肺胞内の酸素分圧は、
(760 - 47) X 0.16 - 40 = 74 mmHg
となり逆に体内の酸素を奪われるようになり息苦しくなる。    


高山病も同じ原理である。
標高3000mでは、気圧が529mmHgになるため、酸素濃度が同じで水蒸気を無視しても酸素分圧は、
529 X 0.21 − 40 = 71 mmHg 
となり息苦しくなる。その対策としては、酸素ボンベなどで酸素濃度を上げればよいことになる。
3000m級の山でも高山病にかかる人がいるのは、同じ酸素濃度でも気圧が下がるために酸素分圧が下がるからである。高度順化は、酸素分圧の低下を、赤血球の増加により、酸素の吸収量を補おうとする自己防衛反応である。しかし、平地に降りることが確実で安全な対策であることがわかる。ちなみに高度8,848mのエベレスト頂上で酸素分圧は、平地(高度0m)の大気の酸素分圧の33%しかない。

人間は、非常に限られた条件でのみ生存できるということがわかる。

0 件のコメント: