2011年10月19日水曜日

リスクの再評価

リスクとは、人体に危害や傷害を与えるような危険な事象または暴露の発生の「可能性」と、事象または暴露によって引き起こされる負傷または疾病の「重篤度」の組合せをいう。「可能性」と「重篤度」の掛け算または足し算の数値によって、L(低い)、M(中程度)、H(高い)と評価することが多い。

リスクアセスメントでは、まずハザード(危険性または有害性)を洗い出し、そのハザードによって生じるリスクを評価する。そしてリスク低減策を立て、それによってリスクがどの程度下がるか再評価してALARP(as low as reasonably practicable)領域にあるリスクを合理的、実行可能な範囲で低減できるリスクまで下げることを繰り返して事業場の安全性を高めていくことである。

リスクアセスメントで最も重要なことは、ハザードを漏れなく洗い出すことである。実際、リスクアセスメントの演習を行うと、ハザードの洗い出しが不十分であるにもかかわらず、リスク評価に時間が多くとられることが多い。しかし、演習の結果、各グループが発表すると、いかにリスク評価にばらつきが出るかということも判る。リスク評価は組織の持つ安全文化や個人の経験の差によりばらつきが出るのは当然であり、内部監査等でリスクの評価値がおかしいという指摘もどうかと思う。

ただし、リスクを再評価するときの考え方をしっかり把握しておく必要がある。リスク低減策を実施した結果、予想される災害や疾病の起因物そのものがもつエネルギーや毒性が減少することによって事象又は暴露によって引き起こされる負傷又は疾病の重篤度が低くなる場合は、「リスクの重篤度」は下がる。しかし、エネルギーや毒性が下がらないのに評価値を変えている場合が多い。リスク低減策により災害や暴露の可能性は下がるが、本質的なリスク低減策を行っていないと「重篤度」はあまり変わらない。
例えば、3mの高さの棚の最上段に20kgの機械が置いてあるが、安定が悪く落下して通行人の頭に当たり死亡する危険性があったとしよう。この場合、「落ちないように機械を固定した」では、落下する可能性は減少するが、もし固定が外れた場合、同じような死亡災害が発生する。しかし、この機械を高さ50cmの一番下の段に置いて固定する場合、「可能性」および「重篤度」ともに下がる。

リスク評価がM(中程度)、H(高い)となった場合はリスク低減策を立て、なおかつ再評価してH(高い)からM(中程度)以下にしないと作業を行ってはならないと社内マニュアルに記述している場合がある。これは労働安全衛生マネジメントシステムの内容どおりなので正しいことであるが、再評価がめんどくさいから最初からリスク評価をH(高い)にしないような評価や、先ほどの例のように「重篤度」が変化しないはずなのにM(中程度)にするために「重篤度」を下げているケースをよく見かける。特に建設業ではリスクの評価がリスクアセスメントの普及に害になっているのではないかと考える。

受容できるまで繰り返しリスク低減策を講ずるALARPの考え方は、非常に正しいが、建設業のような不特定の場所でいつも違う作業員が行うような場合は、リスク評価の部分をもう少し簡略化しないと普及しないと考える。リスク評価の辻褄合わせに走るようなリスクアセスメントは改善していかなくてはならない。

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