2009年3月4日水曜日

リスクアセスメントの課題

 リスクアセスメントは労働安全衛生マネジメントシステムの中核をなすものですが、先取り型の安全というものの、建設業においては形だけが先行してまだ効果が上がっている段階とはいえないようです。

何が問題なのでしょうか。
1.リスクアセスメントを実施する上での課題
1)店社で実施するリスクアセスメントが、過去の災害事例等をデータベース化しリスクを点数化されたものが多く、作業目前の具体的な危険性・有害性で表現できず抽象的な表現になっていることが多いようです。
2)工事量の減少に伴い現場担当者の経験が乏しくなり、安全知識の低い職員や職長では、的確な危険性・有害性の洗い出しができなくなっています。いわゆる技術の空洞化現象の影響が現れています。
3)リスクアセスメントの主旨が理解されておらず、また手順を理解していない場合、リスクアセスメントが表面的、一過性の実施に陥りやすい。したがって刻々変化する現場のリスクの変化に対応できません。また、現場担当者の負担と疲労感だけが残ることになります。
4)建設現場は有期事業であり、重層下請構造の混在作業であるため、リスクアセスメントに参加する労働者はその都度場所と参加者が変わり、ある特定の者だけで実施するリスクアセスメントになりがちです。

2.リスクアセスメントの理解不足
 職長教育におけるリスクアセスメントの教育内容を知らない元請職員は、協力会社をうまく指導することができません。

 法令でいう職長教育におけるリスクアセスメントの内容は以下の通りです。
 1)リスクアセスメントの実施手順
 2)作業手順書の作成とリスクアセスメント
 3)作業員の適正配置(職長・安全衛生責任者の役割とリスクアセスメント
 4)危険予知活動とリスクアセスメントの方法
 5)機械・設備の具体的改善方法(機械設備の本質安全化とリスクアセスメント
 そんなに難しい内容ではないのですが、ISOの二の舞を恐れて深く係わろうとしないのではないでしょうか。

3.リスクアセスメントの最も重要な実施時期が不明瞭
 リスクアセスメントの手順には、5つのステップがあります。
・ステップ1 :危険性又は有害性の洗い出し
・ステップ2 :危険性又は有害性の見積もり
・ステップ3 :危険性又は有害性の評価
・ステップ4 :危険性又は有害性の除去・低減対策の検討と実施
・ステップ5 :実施内容の記録

 製造業では、工場の各ラインについて関係者を集めてこの5ステップで行えばいいことがすんなり分かります。しかし、建設業の場合は店社があり、現場は有期事業であり、重層下請構造の混在作業であるため、全体を取りまとめる人が必要です。統括安全衛生責任者がリーダーシップを発揮しないとできないのです。

 そして、リスクアセスメントがどの時点で重点的に行わなければならないか、意外に理解されていません。当然、当該作業が行われる直前が最も重要です。しかし、現実には工事安全衛生管理計画書を作成する時に行って、そのままということはないでしょうか。工事計画時に、危険性・有害性の危険性が完璧に洗い出しできるわけありません。作業手順書を作成するときに危険性・有害性の危険性を漏れなく洗い出すことが最も重要です。

 建設業で行われているリスクアセスメントの方法は
①店社で主要工種の危険性・有害性の特定表を作成する
       ↓  ↓  ↓
②店社版特定表をもとに、工事安全衛生管理計画書で現場独自の危険性・有害性の特定表を作成し、重点管理項目を決定する。
          ↓
③工事安全衛生管理計画書で現場独自の危険性・有害性の特定表を協力会社安全衛生責任者に提供し、それを参考に作業単位ごとの危険性・有害性を特定し、見積もり、評価及びリスク低減対策を立て、当該作業の作業手順書を作成する。
          ↓
④当該作業を実施する前に作業手順の周知会を開く。
          ↓
⑤当日の朝、作業手順書のリスク評価を参考に危険予知活動を実施する。
          ↓(作業の実施)
⑥工事終了時、工事反省会を実施し新たな危険性・有害性及びリスク低減対策を店社のデータベースへ反映させる。

 実際に作業する労働者が危険性とリスク低減対策を理解していないと、いくら立派な工事安全衛生管理計画書を作っても意味がありません。

 また、作業手順書がただ形式的になって、どこに重点をおいてやれば最大の効果が上げることができるか明確になっていないことが多いようです。

 リスクアセスメントを普及させるにはISOのときのような関係者の疲弊を招いてはいけません。

0 件のコメント: